再生可能エネルギーの地産地消モデル 世界初オフグリッド蓄電ソーラーカーポート

福島県の主要施策「再生可能エネルギー先駆けの地の実現」に向けて

福島県は、持続可能な社会を目指した「再生可能エネルギー推進ビジョン2021」として、復興理念でもある「原子力に依存しない安全、安心で持続的に発展可能な社会づくり」を掲げ、令和12(2030)年度を目標に推進しています。平成23(2011)年の「復興ビジョン」の基本理念を継承した、新たな総合計画(令和3(2021)年10月)でも、「環境への負荷の少ない低炭素、循環型社会への転換」と「復興(地域振興)」を重要な視点として、「再生可能エネルギー先駆けの地の実現」を主要施策に位置づけています。この取り組みを受け、系統電力に一切頼らない「オフグリッド蓄電ソーラーカーポート」開発の共同実証研究が、「会津コンピュータサイエンス研究所」「バンプージャパン株式会社」「会津大学」の3者により始まりました。この「オフグリッド蓄電ソーラーカーポート」の研究で、会津大学が担当するのはAIチップの開発。その開発に当たったベン・アブダラ・アブデラゼク教授(以後ベン教授)に共同実証研究の意義について聞いてみました。

「昨今、エネルギー消費量の大幅な増加と温室効果ガスの排出により、持続可能なエネルギーの開発と省エネルギー対策が全世界的に重要な課題となっています。人口が多く天然資源に乏しい日本では最重要課題とされ、特に、東日本大震災以降、石油や天然ガスから再生可能エネルギー(自然エネルギー)へのシフトが急務となっていますが、依然として大きな課題のまま。そのため、電力網における緊急のニーズに対応するスマートなエネルギー管理プラットフォームが必要とされているのです。中でも、電気自動車(以後EV)は、将来の低炭素交通社会の実現に向けて重要であり、今回の共同実証研究による技術開発は、二酸化炭素排出量削減というパリ協定の達成を目指す政府の政策を後押しします。交通システムでは、EVと電力の脱炭素化の組み合せにより、自家用車などでも炭素削減を実現する有効な手段となります。これらのEVは、私たちが開発するエネルギー取引プラットフォーム(オフグリッド蓄電ソーラーカーポートの技術)を活用することで、新たな価値が創出され、二次的な収入源としての可能性も十分に考えられます」とベン教授は語ります。

オフグリッド蓄電ソーラーカーポート
3者連携による共同実証研究

では、「オフグリッド蓄電ソーラーカーポート」とはどんなもので、その共同実証研究とは、具体的にどのようなことなのでしょう。「オフグリッド蓄電ソーラーカーポート」は、カーポートに取り付けたソーラーパネルで発生した電力に関して、特殊なAIチップを用いることで、蓄電池を介した充放電を自動的に最適化する仕組みを有しています。さらにブロックチェーン技術の活用により、これらの充放電の全ての記録を追跡可能とし、EVで使用される電力の由来も明らかにすることができます。こうした一連の管理を備えたカーポートの開発は世界初だそうです。

<共同実証研究の役割分担>

  • AI技術の活用を得意とする「会津コンピュータサイエンス研究所」
    AIチップ搭載型の蓄電池とブロックチェーン管理基盤の開発を担当。
  • クリーン・エネルギーを使ったソリューションを得意とする「バンプ―ジャパン」
    ソーラーカーポートの設計と開発を担当。
  • コンピュータ理工学の「会津大学」
    蓄電池の充放電を制御する特殊なAIチップの開発を担当。

ベン教授によりますと、「この共同実証研究で開発された技術は、高速かつ低消費電力という長所を兼ね備えたスマートエネルギーマネジメントのための新しいプラットフォームに関するもの。そしてEVは、合理的かつ自律的に充電や放電をおこなうため、分散したすべてのEVバッテリーを巨大なスマート蓄電設備として効率的に管理することを可能にします。それが仮想電源プラットフォームとなります。EVのバッテリーは、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電した電力を蓄えることができ、電力網とグリーンビークル(自然共生、安全、安心な社会を目指した未来自動車)のネットワークに、より大きな柔軟性と拡張性をもたらすことは間違いありません」と述べています。

産学連携で実現した今回の共同実証研究。約2年の試験研究期間を経て実用化を目指すようですが、「実証研究によって、社会に利益を生みだせるという結果こそ、技術開発への自信とスキルになりますし、研究者、教育者として、何よりの励みになります」とベン教授はにこやかに答えてくれました。この共同実証研究の成果となる「オフグリッド蓄電ソーラーカーポート」は、今後急速な普及が予想されるEVや電動キックボード等のマイクロモビリティなど、電動モビリティの各ステーションにおいて、その活用が期待され、スマートシティ会津若松においても早期の設置、展開が待ち望まれています。

会津大学の役割、使命

「オフグリッド蓄電ソーラーカーポート」の根幹となるAIチップを開発した新技術は2021年に特許を取得し、現在、学外から共同研究の依頼が舞い込んでいます。「この新技術は会津若松市のみならず、今後、日本国内はもとより、全世界におけるエネルギー産業の発展に大いに貢献できる」とベン教授はいいます。「共同実証研究というプロジェクトにおいて最大のメリットは、系統電力に頼ることなく、EVの普及に合せた再生可能エネルギー(自然エネルギー)の供給、充電による『新たな電力の商用化』です。そのために、現在も、新たな特許申請を産業界のパートナーと進めています」。この共同実証研究には、会津大学の学生も参加。「博士課程学生1名、修士課程学生2名の計3名がこのプロジェクトに携わり、月1回、会津大学の研究室で産業界の共同研究者とリアルミーティングを行ったり、オンラインでプロジェクトの進捗を議論したりしています。共同実証研究は単なる開発ではなく、研究と開発の両面を併せ持っているため、教育的な見地から、学生たちが新しいアイデアを思い浮かべるたびにどんどん提案できるようオープンな環境づくりを心がけています」と、ベン教授は語ります。このように、会津大学は、教授と学生がコミュニケーションをとる機会が多く、やりたいことが実現できる日本でも希少な大学です。これは会津大学で学ぶ大きなメリットでもあるといえるでしょう。

2021年4月、会津大学の駐車場に3者共同で、オペレーションルームを備えたソーラーカーポートの実物を設置し、同年5月からデータの記録等、研究に役立てています。現在、同じプラットフォームを使い、新たな技術を開発するために多くの実験に取り組んでいるそうです。ベン教授はいいます。「このプロジェクトは、大学内の多くの方々の協力に支えられ、励まされてきました。中でも、とても感謝をしているのが会津大学産学イノベーションセンター(UBIC)の石橋教授です。2年に渡るオンラインミーティングでは、数々の相談に乗ってもらい支援をいただきました。そして、この実証実験研究に関わった日本の人々にも感謝しています。丁寧で誠実なコミュニケーションを取る日本独自の姿勢のおかげもあり、言語の不自由さに縛られることなく、研究に専念できる理想的な環境が実現できました。こうしたことは、会津大学の学生たちにとっても、素晴らしく有益なことだと強く感じています」。

会津大学産学イノベーションセンター(UBIC)の石橋教授にも、共同実証研究の今後の展開について伺いました。「UBICは、1995年に設立され、研究開発室やブース型オフィスを備え、産学官連携や共同研究、受託研究等を推進しています。今回の共同実証研究では、会津大学と企業との連携でイノベーションを起こす仕組みづくりを手伝わせていただきました。今後は、企業のニーズベースで行われるAOI(Aizu Open Innovation)会議において、多くの民間企業と協議しながら実用化に向けた取組みを展開したいと思っております」。そう遠くない再生可能エネルギーを中心とした電動モビリティ社会の未来を見据え、産学連携事業は、会津というこの地で、これからさらに進化を続けていくのでしょう。

プロフィール

ベン アブダラ アブデラゼク先生

コンピュータ理工学部 コンピュータ工学部門長。教授。

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ベン アブダラ アブデラゼク|教員一覧

石橋 史朗先生

産学イノベーションセンター 復興支援センター 教授。

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