会津大学発ベンチャー企業 Z世代に寄りそうイベント型マッチングサービス

学生が起業した企業 株式会社ブランチズム

出会いを加速するイベント型マッチングアプリ開発のきっかけ

2021年の夏、コロナ禍の中、東京2020オリンピックが57年ぶりに国内で開催されました。福島県内でも、野球、ソフトボール競技が福島市で開催され、多くの県民が国内外の選手たちに声援を送り大いに盛り上がりました。しかし、競技場にはリアルな観衆はなく、自宅のテレビやスマホ、タブレットといった画面に映るのは選手たちの躍動だけ。それはオリンピックに限らず、日常生活においても、外出制限や少人数での行動といった自粛要請の影響が大きく、「会津大学でも、オンライン授業が優先されるなど、自宅にこもる時間がみるみる増えていきました」と語りだした株式会社ブランチズム代表の橋本志穂実さん(以後橋本さん)。

「自分だけの生活になると、昼夜逆転したり、食事も不規則になったり、けじめのない日が続き、『心理的にもマズいな』というところまできました。『このままではダメだ。とにかく何かを始めなきゃ』と」。そう思い立った橋本さんが真っ先に考えたのがリアルに人に会うこと。「人に会うには、そのための準備だったり、自分を整えたりということが必要ですよね。人間性を保つ、社会性を保つには、人と会うことが大事だと強く感じました。それが、このサービスを始めたいと思ったきっかけです」。

その後の橋本さんの動きは早く、「人と会う」ことだけに着目したプロトタイプのアプリをつくり、周囲の友達や知り合いにローンチしてまわったそうです。すると、1週間に約60人が反応し使用率は25%という予想以上の反響が得られ、「みんなのニーズに合っている、解決できる」という確信がわいてきたそうです。ただ、このサービスを実際に運用するには、人の問題、業務上の問題、体制の問題等々、身のまわりにある関係性の中では収まりきらないと実感。以前から繋がりのあった仙台のIT企業の方やその周りの知り合いの方に相談してみると、「事業化してみたら」と背中を押されたそうです。橋本さんにとって起業への道標が示された瞬間でした。

「株式会社ブランチズム」のサービス「Splannt(スプラント)」

橋本さんにアイデアが閃いたのは2021年の10月。プロトタイプのアプリで手応えを感じ、11月には起業を決意し、12月に5名のスタッフで会社設立。メンバーには、気の置けない会津大学の同期や後輩の顔ぶれが揃ったようで、「これは絶対に私がやらなきゃという、やりたい気持ちがリスクより勝り、その勢いでスタッフを巻き込んでしまいました(笑)」。「僕もその一人ですけど(笑)」とはにかみながらで答えてくれたのは、橋本さんの信頼が厚い助川さん。助川さんは現在、会津大学の4年生。「僕自身、会津大学では、いろんなプロジェクトに関わり、研修、プログラム、留学などにも積極的に参加しました。中でもシリコンバレーインターンシップの経験はとてもいい学びになりました」。学べば学ぶほど次のステップへの飽くなき欲求がわいてくる助川さんにとって、新たなチャレンジへの扉を開いたのが、橋本さんから持ちかけられた「起業」という未知なる魅惑のワードでした。「『起業』という、よりリアルな社会体験は、これまでの経験を試す願ってもない好機に思えました」。橋本さんの構想を、助川さんが実質的にサポートをする、現役大学生二人の絶妙なタッグが起業の原動力になっています。

「会社名の『ブランチズム』とは、『ブランチ(枝分かれ)』と『イズム(主義)』を合わせた言葉で、私たちの考えたサービスを、枝分かれのように、多方面に展開していきたいという思いを表しました」。橋本さんたちが目指すことは、若者たちが自由だと思える、自由な瞬間が幸せだと思える世界を創ること。「若者の精神的な問題を解決できるサービスを創りたい。手を差し伸べるというより、同じ若者として、当事者として、『一緒にやってみよう!』とハイタッチするようなイメージですね」。

「そんな起業の目的を実現するために考案したのが「Splannt(スプラント)」という学生向けのイベント型マッチングサービスです。制限の多い現状において、学生が安心して外出できる「きっかけ」を創り出すために役立つアプリの開発に取り組んでいます」。ブランチズム創業の柱となる大切な事業が形を成しはじめました。「『Splannt(スプラント)』というネーミングは、『S』は、スクール、スチューデントの頭文字で、若者向けを意味し、『プラント』は、社名の『ブランチズム』の『枝分かれ』にリンクさせた植物の他、『プラン(予定)』と『ネット(ネットワーク)』で出会いをネットワークで作るという意味を含ませた造語です。4月からの本格的なスタートに向け、現在、実証実験によるニーズを集約中です」。

マッチングサービスの需要を検証する実証実験

では、橋本さんたちが目指すイベント型マッチングサービス「Splannt(スプラント)とは具体的にどんなものなのでしょう。「一般的な『出会い系』」とは一線を画します。私たちが考えているのは『イベント型マッチング』。大学とは、新しいコミュニティに入ることですが、今の大学生はオンライン授業が主で、サークル活動やイベントなどに参加することもなく、そもそも友達を作る機会が失われ、自分の居場所をどうやって探すか、というところから始めなければなりません。そのためには、話が合う、趣味が合うなど、『どういう人と会ってみたいか』をヒアリングし、『何をやりたいか』という目的に合わせ、ユーザーに提案します。これを称して「イベント型マッチング」と名づけました。また、街のお店と協力することで、お互い承認した学生同士が街でリアルに会える場を用意したいと考えています。「学生を街で見ない」という地元の住民の方の声も聞こえてくる中で、スプラントは街と若者が繋がるきっかけを提供し、コロナ禍後も街の活性化に繋がるサービスにもなれると確信しています。現在、SNS上の既存のプラットフォームを使い、『これなら参加したい』といった声を集め、これらをデータ化しアプリ開発に活用したいと考えています」。こうした実証実験から得られたアンケートによると、全体的に、出会いを求める結果が多く見られ、アプリに対する需要の高さを実感しているようです。

このコロナ禍の中、会津大学では、オンラインとリアルな授業を並行して行うようになり、何をするにも、どこへ行くにも、最低人数でちゃんとログを残すよう示されているそうですが、「行動歴をログ配信に残すことで『出会う機会』を制限せず、『新しい繋がりを探したい』というニーズに応えられる私たちのマッチングサービスは、学生や若者に対して間違いなくアプローチできると、実証実験の結果が物語っています」。アプリリリースに欠かすことのできない重要なミッション、それが実証実験。「助川君が取り組んでいる実証実験の結果が、成功の鍵を握っています」。4月のアプリリリースを前にした実証実験は、マッチングサービスの事前PRもかねているそうで、リリース開始後の利用者増加に効果があるのではないでしょうか。

ここで課題となるのが資金の調達です。学生間の出会いの場を、「イベント参加型マッチング」として提供することで、売上にどうつなげていくか、という点も、事業として軌道に乗せるためには重要なことです。「仙台・東京のIT企業等の方々や大学の先生方などいろんな方に指導を受けながら、ビジネスモデルを組み立てています。ひとつは、企業向けの学生と交流ができる公式アカウントの使用料です。特に中小企業では大学生との関わりを持ちたいという声がありますが、実際は知り合いがいないとアプローチができない、学生の声を聞く場がないのが現状です。また、学生からも社会人と交流して経験を積みたい、就活の場以外でどのような業界があるか知りたいという声がありました。若者同士・若者と街のお店を繋ぐだけでなく、若者と企業も今までにないSNSの感覚で気軽に繋がれるプラットフォームを構築していきます。もうひとつは、参加した若者や学生から得られる今どきのトレンドや興味など、リアルでさまざまに多様化した志向をデータベース化し、企業のマーケティングなどに役立てることです。」と橋本さん。

入学当時の思いが、「起業」という新たなアプローチの扉を開く

株式会社の登記上、事務所は、会津大学にあるUBIC(会津大学産学イノベーションセンター)に構えるそうですが、事業内容がアプリ開発のため、事業を行う場所に捉われることもありません。2月22日には、株式会社ブランチズムが、会津大学発ベンチャーに認定され学内で授与式が行われました。「これまで29社のベンチャー企業が起業し、その中で、在学中に起業し認定されたのはわずかに5社。その1社が当社になります」。橋本さんは、会津大学への入学時を振り返り、「子どもの頃から、人と会うことは好きでしたが、自分の思ったことを伝えられなかったり、まとまった文章にしたりすることが苦手だったので、『思っていることが直接伝わる方法があれば!』と考えていました」。そんなとき、「生体信号」という分野を知る機会を得て、「脳波や心電図などを使い外部に伝えられるものが作れるかもしれない」と直感した橋本さんは、人に関することをITでデータ解析する生体情報工学講座の研究室がある会津大学へ入学しました。「将来的には、制限を感じている人が、自分のチカラを発揮できるようなものを作りたい、そんな研究者になりたいと思っていました。まさか、自分が起業するとは夢にも思っていませんでした、その頃は(笑)」。

会津大学は、学生の「やりたい」を尊重し全力でサポートしてくれる学風が息づいており、それは、研究のみならず、起業においても同様で、「やりたいことが実現できる」土壌があるようです。「知識がなくても、何かをやってみたいと思う学生にはおすすめの学校です。ぜひ、入学の暁には、弊社のアプリ『Splannt(スプラント)』を使い、新しい友達を探して繋がってほしいと思います」と、橋本さんは笑顔で語ってくれました。

株式会社ブランチズム

代表取締役社長 兼CEO 橋本 志穂実さん

会津大学修士1年生(※)。自身の経験をきっかけに株式会社ブランチズムを起業。「若者が自分らしく生きられる社会を実現したい」という思いを事業化。

COO 助川 拓哉さん

会津大学4年生(※)。株式会社ブランチズム創業メンバーの1人として、事業構想の実現のために重要な実証実験を主に担当する。

※2021年度取材当時

ウェブサイト
株式会社ブランチズムのアプリ「Splannt(スプラント)」
広報担当 Email
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