世界最大級の国際大学対抗プログラミングコンテスト ICPC

ICPCアジア地区大会で成果を出し続ける会津大学

「ICPC」とは「International Collegiate Programming Contest」の略称で、日本では「国際大学対抗プログラミングコンテスト」と呼ばれ、世界で最も規模が大きく、権威のある大学対抗のプログラミング大会として知られています。1970年にアメリカ合衆国(以後米国)テキサス州にあるテキサスA&M(Agricultural and Mechanical)大学で行われたコンテストが始まりとされています。1977年には、ACMとの併催により、現在の勝ち抜き型コンテストの原型となった決勝大会が初めて開催されました。ACMとは、米国を中心に1947年に創設された世界最大のコンピュータサイエンス学会である「計算機協会」のこと。さらに、1997年にIBMがスポンサーにつくと、参加数が560大学・840チームに急増、10年後の2007年には、大学数が3倍超、チーム数が約8倍の1821大学・6700チームが参加するほど、世界にその名が響き渡るようになりました。

「会津大学がICPCへ初めて出場したのは、日本国内で初開催された1998年のアジア地区大会からです」と教えてくれたのは、会津大学でICPC出場チームを束ね、コーチを務める渡部有隆先生。自身も会津大学出身である渡部先生は、大学院に入学した2002年にICPCアジア地区大会へ選手として初出場、翌2003年にも続けて出場し、その後はコーチとして選手たちを指導する立場で参加しています。「もともと当時の指導教員に勧められたのがきっかけですが、実際に選手として出場したことでICPCの開催意義を知ることができました。これは、私にとってとても大きな出来事でした」。

会津大学は、1998年の日本初開催以降、これまで23年間連続でアジア地区大会に出場し続けています。この記録は、日本国内において会津大学、京都大学、東京工業大学、早稲田大学の4校だけで、特に、地方の規模の小さい公立大学の連続出場というのは、極めて稀なケースとのことです。「連続出場し、かつ、成果を出し続けるためには、優秀な学生を『集め』、『できる選手』として『育て』なければなりません。チームは学生3人で構成しますが、教員がコーチとなってチームを作り、大会へ登録し、出場へと導いていきます。つまり、長年に渡りコーチを務めることができる教員の存在がないかぎり、出場自体も難しく、選手とコーチとが揃って初めて出場への道に繋がっていくのです」。

2003年に行われたアジア大会の様子。

ICPC世界大会出場への道程

渡部先生の初出場から7年後の2009年4月、アジア地区大会を勝ち抜いた会津大学は、スウェーデンの首都ストックホルムで開催された世界大会へ念願の初出場を果たしました。世界各地で繰り広げられた激戦の地区大会を勝ち抜いた強豪揃いの100チーム。会津大学「Watch.c」でチームを組む、平野佑樹さん(当時学部3年生)、田山貴士さん(同4年生)、和知宣行さん(同4年生)、そして、渡部先生(コーチ)は、集結した強豪たちを相手に快進撃を続け、初出場で49位と、世界のベスト50位以内に食い込む偉業を成し遂げました。

その後も、会津大学の出場チームの活躍は目覚ましく、2016年、2017年と2年連続で世界大会へ出場しました。2020年の世界大会では、これまでの中でも最高の順位となる27位という記録を打ち立て、会津大学の実力を世界に示しました。この記録の立役者となったのは中村朗さん(当時修士2年生)。このように、優秀な学生たちが世界の舞台で活躍してきました。「いつかは必ず、メダルを獲得したいと思っています。メダルは金銀銅それぞれ上位4チームずつに与えられますので、目指すのは12位以内、できることならベスト10入りを果たしたいですね」。そう語る渡部先生は、今後もさらなる高みを見据えています。

ICPCに初出場してからこれまでの20年あまりを振り返り、渡部先生はいいます。「私は、会津大学が実施する『パソコン甲子園』でも作題の担当をしているので、身を持って実感しています。20年前と今とでは、ICPCの問題の難易度が比べ物にならないぐらいハイレベルになりました。私が選手だった当初は、コンピュータサイエンスに関するアルゴリズムなど、そういう知識をある程度身につけることで対策できましたが、今はそうはいきません。時代とともに、出題される問題も今以上に難しさを増していくことが想定されます」。これから情報系やプログラミングを学ぶ人も増加の一途をたどると考えられており、競技人口はますます増えていくでしょう。ICPCを取り巻くこうした環境下で会津大学が今後も連続出場を達成し続けていくには、優秀な学生を集めることに加え、『資質に恵まれた学生』を、いかに創出できるかどうかにかかっているようです。

世界大会で49位の成績を残したチーム「Watch.c」のメンバー。

ICPCの結果が示す会津大学の実力

「厳格なルールのもと、同じ環境で同じ問題に向き合い、プログラミング技能を競う大学対抗の世界大会であるICPCこそ、大学の実力を測るものさしであると、私は常々思っています。プログラミングとは、コンピュータサイエンスの本質なんです。」と渡部先生は言います。ICPCのプログラミングコンテストは、数学とアルゴリズムで問題を解き、解答をプログラミングし正解を導きだす競技。「他のプログラミング大会と比べ、純粋に頭脳明晰さを競う大会であり、これこそコンピュータサイエンスに一番重要な資質だと思っています。ICPCは、出場大学の教育の質を披露できる舞台なんです」。ただ、と渡部先生は続けます。「誰でも頑張れば上位に行けるというものではなく、その学生の『センス』が何より問われます。先に述べましたが、『コーチ』という存在も学生を教育し育てるという意味では重要な役割ですが、それとともに、才能のある学生・素質のある学生が集まらないかぎり、勝ち抜いていくことができないという側面も現実問題としてあります」。

会津大学では、新入学生に対しICPCのアジア地区大会や世界大会への出場実績を紹介することで、興味を持った学生の中から有能な人材を見出し、素質を磨きあげ、「選手」に育てていくための新人スカウトに、渡部先生は毎年熱心に取り組んでいるそうです。ICPCは世界中の大学にとって教育の真価が問われる大舞台であり、その世界大会に出場するということがどれほど困難なことなのかを渡部先生は強調します。「現在、日本の頂点に立つのは東京大学です。日本国内の他の大学の追随を許さない、世界においてもトップクラスの大学ですので、実力の差は歴然としています。東京大学以外でも、京都大学や東京工業大学、東北大学などといった国内有数の名門大学が揃い踏みする中、こうした強豪たちを相手に堂々の勝利を収め、世界大会に4度も出場した会津大学の実力は、『日本を代表する大学の証』といっても言い過ぎではないと思っています」。これまでの20年あまり、会津大学はICPCへ出場する選手やチームに対し、手厚いサポートを続けてきました。「そのおかげもあり、アジア地区大会や世界大会へも出場し、世界レベルと互角に渡り合い、結果を残してきました。彼ら選手たちは、卒業後にITや関連の世界の最大手と言われる一流企業へ就職し、世界をまたにかける活躍をしています。卒業生の足跡を讃えつつ、彼らが目指した世界の大舞台の先を求め、新たな一歩を踏みだす未来のチャレンジャーを会津大学は全力でバックアップします」と、渡部先生は最後に力強く語ってくれました。

手厚いサポートの元、チャレンジを続ける会津大学の学生たち。

プロフィール

渡部 有隆先生

コンピュータ理工学部 上級准教授。自身も会津大学の出身。

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