福島県内の女性を対象にしたITのリカレント教育 女性のためのITキャリアアップ塾

福島県内の女性のためのデジタル専門講座

昨今、DX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)が推進されたり、国の省庁としてデジタル庁が発足するなど、社会的にますます存在感を高めているデジタル分野。このような流れの中、ITスキルを持つ人材は、あらゆる企業・団体でニーズが高くなっていることは想像に難くないでしょう。
会津大学はコンピュータ理工学の専門学部を持つ大学として、自校の学生を国内外で活躍できるIT人材として育成するだけでなく、その学びの機会を社会人や一般にも提供しています。その一つが今回紹介する「女性のためのITキャリアアップ塾」です。 この取り組みについて講座を担当している会津大学の中元淳二教授にお話を伺いました。

 「最近デジタル分野で特に言われている『雇用のミスマッチ』を解消することを目的として、出産・育児等で仕事を離れている女性など、福島県内での就業やキャリアアップを目指す女性を対象に、デジタル学習専門講座として、『女性のためのITキャリアアップ塾』を開講しています」と中元先生。
ここでいう「雇用のミスマッチ」とは、求人する企業の採用したい人材と求職する女性の持っているスキルにミスマッチが起きており、就業の機会を喪失している状態のことを言います。

本講座をあえて女性を対象にしている理由についても中元先生は教えてくれました。「ここ数年、デジタル分野の仕事のニーズが急増し、全国的に人手不足が叫ばれています。特に、事務系の仕事でデジタル化が急速に進み、ITスキルを持った人材のニーズが高まっています。しかし、事務系の職種は女性の非正規社員の割合が比較的高く、事務作業のデジタル化による仕事の減少とともに、社会では『人員の余剰』という現象が日常的に起き始めています。このような現代社会情勢において、昨今ニーズの高いデジタル分野の求人にマッチした人材を育て、より良い就業のためのキャリア形成をサポートするため、本講座を実施しています。」
もともとは「女性プログラマ育成塾」として平成29年から始まり、女性プログラマ育成を旗印に掲げ3年間開催されていました。その後、プログラミングだけでなくITスキル全般にカリキュラムを広げた内容へ改訂し、よりデジタル分野の求人にマッチングできるよう、令和2年からは講座名を現在の名称に変更して今年で3年目を迎えました。現在は「IT基礎・Webデザイン基礎コース」と「プログラマ基礎コース」という2つのコースで、ITスキルを持った事務系職種やWebデザイナー、プログラマなど求職ニーズの高い分野をカバーしています。

<講座内容詳細>

  • 「IT基礎・WEBデザイン基礎コース」
    Excel、ITリテラシーを学びデジタルで事務処理をするだけでなく、ホームページのデザイン・制作など、Webツールを使ってどのように情報を発信するか、といった内容を習得し、県内のIT関連企業やIT関連業務への就業を目指します。
    IT初心者向け、定員45名程度、受講期間は約3カ月。
  • 「プログラマ基礎コース」
    システム開発やデータベースの基礎知識、Java言語を使ったプログラミング、アジャイル開発などを習得し、ソフトウエアを開発する人材を育てるコースです。
    県内のIT関連企業やIT関連業務への就業、または起業等を目指します。
    IT中級者~上級者向け。定員45名程度、受講期間は約7カ月。

どちらのコースもオンラインによるeラーニングが基本。受講生の生活スタイルに合わせた時間帯で効率よく勉強してもらえるように配慮しつつ、講師によるライブ演習も用意。「動画による授業とライブ授業を組み合せることで、IT知識の習得だけでなく、講師や受講生同士でコミュニケーションを取りながら学ぶ機会ができ、受講者がよりITについて理解を深められるような講座になると考えています」と中元先生。

さまざまなお話を聞かせてくれた中元先生。

産学連携でより実践的にITの運用と開発を習得

 中元先生は、令和2年から「女性のためのITキャリアアップ塾」に関わるように。本講座の運営でどんなことに注力しているかについてもお伺いしました。
「カリキュラムの編成など、個々の受講生にとって受講しやすい講座環境かどうかを受講生や講師の方々と意見を交わしながら運営に取り組んでいます。当塾の最大の目的は、全ての受講生がデジタル関係の仕事に100%就職、就業してもらうことです。そのためには、しっかりと知識やスキルを学んでもらうことだけでなく、企業が求める人材とのマッチングも非常に重要です」。

受講内容と企業が求める人材のマッチングを高めるために、本講座は2つのコースでIT人材の育成に取り組んでいますが、業界で求められる知識やスキルは時代とともに変化します。変化の早いIT業界に対応するべく、カリキュラムを毎年変化させています。そのカリキュラム作りに最先端のITを学術的に研究する会津大学の先生方や、実際に就業する場となる一般企業との連携をしているそうです。

「会津大学からは、コンピュータ芸術学などに精通し、アート的な面からアプローチするCOHEN(コーエン)先生がAlice(プログラミングの学習環境)を用い3Dアニメーションプログラミングを教えています。また、プログラミングが専門の渡部有隆先生が競技用のシステムを開発し、そのプログラムの組み立て方などを教えています。それぞれの講師には毎回アシスタントとして2名ほどの学生も入りサポート。講師の先生方とともに講座運営に取り組んでいます。さらに、実践的な講座には一般企業の方に講師を依頼しており、システムや情報機器などの導入企画・環境構築・運用などを手掛ける株式会社エフコム(郡山市)様には、プログラミング全般とWebアプリをJavaプログラミングで作る方法をオンラインのライブ授業で教えてもらい、Webサイト制作、Webマーケティング、システム開発を主業務とする株式会社ノヴィータ(東京都)様には、Webデザインの基礎知識やツールを使って簡単なチラシを作成するなど、グラフィックデザインをオンラインで教えてもらっています。」

各分野の専門家から学術的な学びと業務の現場で役立つスキルを習得する機会だけでなく、本講座の中には受講生の就職支援も含まれています。この点についてもお伺いしました。
「本講座の命題は『受講から就職まで一貫して支援する』こと。2つのコースを受講した後には、企業説明会や個別面談を適宜開催し受講生の新しいスタートに繋がる道筋作りに責任をもって取り組んでいます」。
受講を終えたメンバーの中には、現在、西会津町のICT支援員として西会津町の小中学校でタブレットを使った教材の導入をサポートしているほか、福島市のIT企業に入社された方もいます。この「女性のためのITキャリアアップ塾」のカリキュラムであるIT知識とスキルの習得・ジョブマッチングを経て、多くのメンバーが活躍。見事、女性のIT人材の養成と新たな活躍の場を創造するという目的を果たし、素晴らしい実績を残しています。

日本工学教育協会から工学教育賞を受賞

「女性のためのITキャリアアップ塾」は、リカレント教育という意味でも大きな貢献をしています。リカレント教育とは、学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと。本講座は、現在無職の女性や非正規雇用として働く女性、出産や育児等による退職からの再就職を目指す女性等を対象にしていることから、2020年度に公益社団法人日本工学教育協会から「工学教育賞」を受賞しました。この「工学教育賞」とは、日本の工学教育、ならびに技術者教育等に対する先導的、革新的な試みよって、その発展に多大な影響と貢献を与えた個人、団体の業績を表彰するもの。この栄えある受賞について、伺いました。
「こうした『デジタル分野に特化した女性を対象にしたリカレント教育』に長い間取り組んでいるのは、全国で唯一、会津大学だけです。「女性のためのITキャリアアップ塾」を手掛ける会津大学復興支援センターのこの取り組みが評価されたことは、会津大学にとって非常に喜ばしいことでした」。
社会的な問題である「雇用のミスマッチ」そして「デジタル分野の人材不足」。さらには「就業人材の減少」「女性の社会進出」といった課題にも好影響をもたらす本講座の取り組み。
これまで本講座を受講した約500名の受講生が、福島県内を中心としたIT業界の第一線で活躍しています。そしてこれからもその数は増えていくことでしょう。

公益社団法人日本工学教育協会から「工学教育賞」を受賞した際の表彰状。

さらに中元先生は、本講座のような教育活動の今後の展望についても教えてくれました。「国連サミット加盟国の全会一致で2015年9月に採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダに記載された持続可能でよりよい世界を目指す国際目標SDGs』の取り組みは、ここ数年、全世界的な大きなうねりとして先進国を中心に浸透しはじめています。その中に『地球上の誰一人取り残さない(leave no one behind)』という印象的なフレーズがあります。地域課題でもあるデジタル分野におけるIT人材育成において、会津大学も『誰一人取り残さない』運営体制を整えています」。
特にこの先、デジタル社会が進むにつれ、ITスキルに乏しい、または苦手意識を持つシニア世代がデジタル社会から取り残されてしまうことが懸念されています。そうした高齢者の方々に対しても、「スマホやPCといったデジタル機器操作の苦手意識を解消できるような体験機会を設けられるようにしたいですし、そのための要員を育てられるような指導要綱などカリキュラムの編成も今後考えていきたいです」と語ってくれました。
これは、総務省の施策でもある「デジタル活用支援推進事業」の中にある「デジタル活用援員の育成・研修プログラム作り」にも通じる内容。現役世代はもちろん、シニア世代に向けたデジタル分野の講座開設・レクチャー人材育成にまで視野が広がっています。

会津大学は、今回紹介した「女性のためのITキャリアアップ塾」の取り組みをはじめ、デジタル分野の人材育成・教育において社会的なニーズをキャッチアップし、今後も成果を残していくことでしょう。なぜなら、会津大学には社会ニーズを理解しITの知識やスキルを活用した活動を形にできる、国内外に誇れる優秀な講師陣がいます。そしてその講師陣のもとに集う学生たちも、社会に求められる「ITができること」を学び、世の中に羽ばたいて実績を残していくことが期待されます。

プロフィール

中元淳二先生

復興支援センター 教授。2020年7月~2022年6月まで在籍。

復興支援センター
復興支援センター|会津大学
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