本学は2023年度に会津大学30周年を迎えます。これを機に、建学の理念である "to Advanced Knowledge for Humanity" の今日的意義を、教職員・学生・卒業生みんなで考えてみようと会津大学University Identity構築プロジェクトを始めました。

今回その一環で、外部有識者10名の方々に「会津大学とは何か?」を大きなテーマにしたインタビューを行いました。客観的な視点からのお言葉を元に、会津大学の存在意義や求められているものに迫っていきます。

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第9回:一般財団法人 とうほう地域総合研究所 矢吹 光一理事長

デジタル人材が決して多くない福島で、会津大学の知見・ノウハウは重要。それを地域で生かしてもらうには、産業界が大学を支えていく仕組みが不可欠。

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Q. 矢吹さんは2022年度から会津大学の経営審議会委員に就かれたとのことですが、これまで地域の財界に関わってきた身として、また一県民として、会津大学の存在意義とはどのようなことであると思われますか?

昨今、ICTやデジタルが話題に上りますが、建学から30年、地域においてコンピュータ理工学の専門大学として、これだけコンピュータサイエンス分野に優位な人材を輩出してきたことに対して、私自身「会津大学は県民にとって大きな希望である」と思っています。

デジタル化が急務となっている現代において、一番の課題は人材です。福島のデジタル化を進めていく中においても、デジタル人材は決して多くないし、特に中小企業では確保することが本当に大変なんです。その中で、データをしっかり読み解いて次のソサエティ5.0などにつないでいく、そういう人材を配置できるのが会津大学だと思っています。

一方で学生さんの就職を考えると、やはり福島よりは首都圏ということもあると思います。それはそれで良いとは思いますが、そういった方々の知見やアイデア・ノウハウが、地域にとって、福島県にとって、新しい産業構造やイノベーションにつながっていくと良いですね。

学生たちが、会津のみならずこの地域、東北、東日本などでもっと深い関わりができるような場を、大学だけでなく、我々産業界、経済、福島県全体でもう一度再構築していく必要があるのではないかと考えています。

Q.会津大学は「地方創生」や「市民のWell-being向上」という観点でどのように貢献できると思われますか?

会津地域の基幹産業を考えていくと、例えば「観光」がありますね。観光にはまだまだデジタルが入っていける領域があります。観光の一番大きなプラットフォームとして旅館がありますが、旅館は労働生産性が必ずしも高くありません。宿泊客が旅館に滞在している間の過ごし方などの見える化、データ化にはまだまだ改善の余地があります。今後インバウンドが広がっていく中で、データをどう読み取っていくかはとても大事です。さらに、医療や介護ももっとデジタル化していく領域で、そこに会津大学が貢献するような動きがあるのではと思います。

また、このような発想は福島県全体にも当てはまります。県内では「福島イノベーション・コースト構想」などいろいろな産業を興そうとする動きがあります。その中には、当然ながらICTやデジタルのノウハウが生きていかなければなりません。会津大学は福島に拠点があって、福島の事業をわかっている多くの優秀な先生方がいらっしゃるわけですが、それをもって何をしていくかということが大事だと思います。

さらに言えば、大学の地域貢献を産業界がしっかりと支える仕組みが重要です。

2025年になると、デジタルネイティブやソーシャルネイティブの人が生産年齢人口の半分を占めるといわれています。ここで日本の産業構造全体が、働き方も含めて、一気に変わるのだと思っています。会津大学の役割が非常に大きいものになるでしょう。そういう意味でも、今目の前に見える景色より、これから5年後、10年後に起こるであろう景色をしっかり捉えて戦略を考えていかないといけません。

Q.会津大学は、若者や外国人が集まる場でもあります。彼らの存在は地域や社会に対して影響を与えていると思われますか?

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賑わいだったり、消費だったり、労働力だったり、その地域に学生がいるのといないのとでは全然違います。若い方はいずれ消費をリードしてくれるし、いつの時代も流行をつくり、トレンドを発信します。しかし会津でそういう方々と地域とのつながりや、接点の場を見ることが少ないように思います。学生さんがどういう形で地域に溶け込んでいるのかわかりませんが、地域との繋がりのより一層の強化や消費行動に展開していくことが大事なのではないかと思います。

最近は私自身、学生に話をする機会や学生の取組みに参加させて頂く機会があるのですが、学生と話すと、「地域社会と積極的につながりたい」という気持ちがあることがわかります。そういった場を誰かが用意してあげなくてはなりません。地域社会にとって非常に良い影響を与えるので、接点を増やしていくべきだと思います。これは、必ずしも学生起点でなくていいと考えています。

Q.30年後の社会はどうなっていると思われますか。また、その中で会津大学に期待することはどのようなことでしょうか?

人口は減少していき、消費や労働力の減少、高齢化は避けられません。だからといって、すべてが無くなってしまうわけではありません。地域の人たちが、その地域に魅力をつくっていくことで、未来はいくらでも変わります。

「他人と過去は変えられない。変えるのは自分自身と未来である。」

そういう意味では、30年後は必ずしもドラスティックに変わるわけではなく、本当の人の豊かさや、心の豊かさが重視されるようになるのではないか、それを支えるのがデジタルやデータなのかなと思います。これからの社会というのは、ますます人と人のつながりを求めていくような部分が出てくるでしょう。そこでは経済的発展ももちろん大事ですが、ノウハウやつながりなど、バランスシートに現れてこない無形の資産をいかに見える化し、極大化していくかが一番大切だと思います。

30年後、人と人がつながることを支えていくツールがデジタルやデータなのだから、会津大学としては、人が大切にしている価値を理解できる人を育んでいくことが、とても大事だと思っています。

矢吹様、ありがとうございました!

次回は本連載の最終回株式会社会津コンピュータサイエンス研究所 代表取締役の久田 雅之様のインタビュー報告です。

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